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千葉県立中央図書館の保存活用に向けて(ご挨拶/ブログ開設主旨)

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千葉県立中央図書館は、建築家・大髙正人(1923-2010)の設計で、構造家・木村俊彦 (1926-2009) が考案した「プレグリッド・システム」を用いて1968年に竣工した建築です。 2003年にはDOCOMOMO Japan選定建築に選ばれるなど、かねてより高い評価を得てきた戦後モダニズム建築の代表作として知られてきた建築ですが、 2019年6月に新たに千葉県立図書館を建設することが決まったことで、50数年に亘って担ってきた図書館としての役割を失うことになりました。 千葉県立中央図書館は後世・未来に継承するに相応しい優れた文化資産であり、 保存活用を検討するために取り組んだ活動記録としてブログにまとめることにしました。 ブログにまとめた一連の活動記録が広く千葉県立中央図書館の保存活用の意義を理解していただく一助になれば幸いです。 事務局:藤木竜也 (千葉工業大学創造工学部建築学科  准教授) 千葉県立中央図書館_保存活用活動  専用メールアドレス: p.u. cpcl@gmail.com 研究室URL: https://marufuji.wixsite.com/fujiken

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案(千葉工業大学大学院建築学専攻:2024年度 建築設計保存改修特論)/ 課題概要と2024年度の傾向

更新が習慣化されていないこともあって、今年度はブログに書き込むことすら失念してしまっていたのですが、5年目となります2024年度も 千葉工業大学大学院建築学専攻「建築保存改修設計特論」にて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んで参りました。 このほど全13週の授業スケジュールを終えて、2024年度の最終成果がまとまりましたので、ブログでも紹介したいと思います。 課題概要は過年度と同様で、2019年11月の ワークショップ を通じてまとめられた7つの活用方法を基に履修学生18名を3名ずつ下記6チームに分けて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みました。 ワークスペース   (一時的な使用となる「ワークスペース」としての活用) レンタルスペース   (一定期間の借用となる「レンタルスペース」としての活用) アートスペース   (建築の魅力を活かした「アートスペース」としての活用) アタッチスペース   (近隣施設の「アタッチスペース」としての活用) コンバージョン   (機能を挿入した「コンバージョン」としての活用) レガシー   (千葉文化の森の「レガシー」としての活用(プレグリッドシステムの架構を保存)) まずは全体的な傾向をここで述べておきたいと思います。 2024年度は、全体的に千葉県立中央図書館の保存改修設計提案を行うことを比較的ポジティブに捉えている印象が感じられました。学部2年に「サステナブル建築学」を新規開講した最初の学年であったという過去の学習経験によるものかもしれませんが、どうあれ歴史や文化を重んじられる姿勢は好意的に映るところです。 これは1つの解法になるものといってよいと思いますが、2024年度も複層的なエスプラナードをもつという千葉県立中央図書館の特質に着目するチームが多く、そのキャラクターをより活かすために外部(エスプラナード)を積極的に内部に引き入れて建物内をエスプラナード化する傾向がよくみられました。 一方で、過年度とは異なる傾向もありました。千葉県立中央図書には、プレグリッドシステムやエスプラナードといった特異な形態をもつこともあって、おのずと造形からアプローチすることが多かったのですが、2024年度では大髙正人の建築思想をレファレンスしてアプローチするチームが見られたことはとりわけ好ましく、このことが全体の

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / レガシー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるレガシーの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] プレグリッドシステムの架構のみを残すレガシーというテーマに対して、ここに「個性的な体験を生む公園」(荒川修作「養老天命反転地」やイサム・ノグチ「モエレ沼公園」を想起するとイメージが容易になるでしょうか)を提案されました。 千葉県立中央図書館ひいては「千葉文化の森」全体に及んで点在する円形ないし曲面の造形に糸口を求め、これこそが大髙正人の群造形を表徴するデザインとして仮定し、円を基本造形として3名のチームメンバーがそれぞれデザインした「体験装置」をプレグリッドシステムの内部もしくは周辺に並べて全体を構成しています。 [ 総 評 ] プレグリッドシステムをパーゴラに見立てランドスケープにする提案は過去にも見られてきたもので、レガシーのテーマにおける1つの典型的な解法になるものだろうと思います。 本提案が過去の作品と大きく違えるのは、形態ないしプログラムからアプローチするのが多い中で、大髙正人のテキストから設計理念を読み解いて思想から本質に迫ることを試みたことでしょう(歴史的建造物の保存継承において望ましいアプローチといえるものです) それを通じて着目されたのが「円」の造形で、これこそが大髙の造形上の根幹として位置づけ、プレグリッドシステムを支持する「土台」たるラーメン構造のフレームに多く円形をあしらえていることから、これにも価値を見出すことこそが千葉県立中央図書館における大髙の建築思想を継承するものと説きました。円形を多用していることは理解してきましたが、その意味を深く考えるまでには及べてこなかったこともあり…この鋭い指摘には驚かされました。 レガシーというテーマは、柱梁のストラクチャーだけにするため厳密には歴史的建造物保存とは言い難い性格をもつものですが、挿入された「体験装置」が一定期間公園として利用され、状況が整ってから新たな活用方法をもって再生できるに及んだ時に「体験装置」を取り除いて原状回帰できる計画というのは(ただし書庫だけは解体)、実現性の観点でも評価できるように

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / コンバージョン

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるコンバージョンの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 文教施設が建ち並ぶ「千葉文化の森」という敷地と、そして周囲が官庁街であるというコンテクストを読み取り、宿泊施設を伴う「青年自然の家」へとコンバージョンすることを提案しました。 西側のブロックにギャラリーと会議・研修室等を配置し、東側のブロックでは、そのプレグリッドシステムの特徴的な造形を活かした多目的スペースを設けました。中央部は内観を継承してホールとして取り扱い、宿泊機能(宿泊室、浴室、食堂など)を書庫内に収める計画としています。 多目的スペース(プレグリッドシステムで構築された東側ブロック)には、湾曲させた鋼板を挿入して補強すると共に、これで隔てられ外部となった箇所は床パネルを除いて格子梁を露出させ、まるで内外が反転するような造形性に富んだ空間としており、デザインにも与する耐震補強の提案も行っています。 [ 総 評 ] プログラム選択の幅が広く、かえってこれが難しくもあるコンバージョンというテーマにおいて「青年自然の家」をチョイスされました。都市部でありながら、自然も多い「千葉文化の森」には、千葉県文化会館、千葉市立郷土博物館、千葉県庁(教育委員会)などが近隣に建つことから研修施設は十分にニーズが考えられるでしょう。 かねてから本課題においてホテルを提案することが散見され、これもまた1つの解法ともいえるものでありました。ホテルとして計画すると、宿泊客へのインセンティブのため、プレグリッドシステム内部に宿泊室を配して魅力を提供するものが多く、一方で空間的な差異の顕著な書庫をどのように利用するか悩ましく映るものを見てきました。 本提案では「青年自然の家」とすることで、宿泊施設のクオリティにプライオリティを求めなくても良いことで、北東側の書庫内にこれを収めて、全体的に現実的な提案になったように感じられました。 プレグリッドシステムに湾曲した鋼板を挿入して耐震補強を試みたことも、施工こそは難工事になりますが、コンクリートの重厚さに比して表情を違えるソリッドな建築がオーバ

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / アタッチスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるアタッチスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 近隣に所在する千葉大学付属病院のリハビリ施設の拡充を提案したものです。構造を専門とするメンバーが2人いるチーム構成ということもあり、新たに加える耐震壁に矩折にしたワイヤーを挿入して、これで床スラブを吊り上げて荷重を緩和するという特殊な吊り構造による耐震改修を提案しました。従来に吊り構造では、吊り材が視覚的に露出してしまうので、保存継承に相応しいようにこれを隠す斬新な耐震補強案を試みました。 [ 総 評 ] 当初は「千葉文化の森」全体をリハビリ施設として扱い、千葉大学付属病院のアタッチスペースとして、その関係性を明瞭なものになるよう計画していましたが、建築計画としてリハビリ施設を成立させることに苦心され、結果的には挑戦的な提案が小規模化する形になりました。そのためアタッチスペースとしての提案もいくらか魅力が薄れてしまったことは否めないように映る提案となりました(もっともリハビリ施設の建築計画は難易度の高い設計ではあるので、ハードルが高かったとみることもできるかもしれません) 斬新な吊り構造を内包する耐震壁の提案は、現実的には難しいという結果にこそなりましたが、挑戦そのものは評価されるべきものと思いますし、何よりアイディアは興味深く映るものでした。構造解析をして、既存建築の強度を示したことも有用な成果であったと考えます。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / アートスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるアートスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 街に対して正面となる西側のプレグリッドシステムをもつブロックを図書館の記憶を引き継ぐ書籍を介したコミュニティスペース、東側のプレグリッドシステムと書庫からなるブロックをアートスペースとし、大髙正人の事績を顕彰する常設展示室と、例えば絵画のような厳格な温湿度管理を必要としないアートを対象にした企画展示室とで構成するものとして計画しました。 東西のブロックは既存建築の保存継承という性格をもつ一方で、中央部分は大胆に解体して南北を貫く新たな動線をつくりました。これによりコミュニティスペースとアートスペースを接続するホールとすべく、これを鉄骨造の樹状トラスによって既存建築と対比的な表情をもつ新たな大空間を形成しています。 [ 総 評 ] 意匠・構造・材料のメンバーから構成されたチームで、意匠が全体を計画し、材料が企画展示室のインテリアと壁面緑化、構造が新設するホールをそれぞれ分業して取り組まれたもので、バランスのとれた提案になりました。 保存継承の観点からみれば、中央部分を解体することには賛否があると思いますが、駐車場側(北側)にもエントランスを設けて、従来のメインエントランスと南北方向でつなぐホールとする計画は過去にも同様の手法が試みられてきましたので、改修設計提案の1つの方向性を示しているように思います。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / レンタルスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるレンタルスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館を特徴づけるプレグリッドシステムを保存継承において重要とみて、外壁を取り除いて床面の高さを操作することで既存建築の下部にエスプラナードを引き込み、かつ新たな動線を獲得し(エスプラナードの拡張)、これを視覚化するためにDPG構法によるガラスボックスを配置して、レンタルスペースの用途に充てるという提案を行いました。 [ 総 評 ] 一面的に暗く重苦しい印象を伴う千葉県立中央図書館を明るく開放的にするための提案です。建築よりは場所の意味を継承することが重要視され、既存のパーツを大部分取り除き、加える操作(ガラスボックス)も最小限に留めるという「マイナスのデザイン」によって全体を構成していることで、結果的にレガシーのテーマと性格的に近い提案になりました。 これを実現するためには、下層階の床面切除、地下階の埋め戻しと床面の新規打設、そしてプレグリッドシステムの中間階の切除という難工事が必要であり、全体的にやや観念的なアプローチに終始した印象をもたせるものになりました。この軽やかなスタンスによるアプローチも学生ならではの提案といえるかもしれません。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / ワークスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるワークスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 2024年度は、建築材料を専門に学ぶ大学院生(計5名)に多数履修いただきました。その中で、当該分野だけで構成されることになった異色のチームにより取り組まれた提案です。 本チームのテーマとするワークスペース、ひいては他のテーマであっても汎用性の高い建築材料の視点から、設計ではなく次の3つについて改修方法の提案を行うというアプローチになりました。 ①柱壁の補修:コンクリート中性化の進行が顕著な箇所を取り除き、亜硝酸リチウム含有エマルションを塗布し、鉄筋を亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントで保護する。取り除いた部分について亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルで充填し、斫り仕上げ(ビシャン仕上げ)については、これをあらかじめ施したパネルを特注で製作して覆い、打放しコンクリート仕上げ面はクリアー塗料で保護を行う。柱と梁は、炭素繊維シートを定着プレートとボルトで固定して、モルタルを4cm厚で被覆することで補修する。 ②屋上緑化:荷重を鑑み外周に中高木、中央を常緑キリンソウとして、これに必要な屋上防水改修と潅水・排水のシステムを提案。 ③トイレ改修:2か所あるうちの西側トイレを多目的トイレとして内部改修し、東側トイレを建て替えて、内部仕上げに漆喰を用いる。 [ 総 評 ] 意匠系不在という、設計課題に取り組む上ではアンバランスなチームメンバーとなったため、割り切って3人それぞれに材料の視点から提案を行ってもらうという方針になりました。 それぞれに努められ、挑戦的というよりは現実的な提案としてまとめられました。もっとも、こう映るのも担当教員が材料分野に精通していないことよるところが大きく、このことは上述した「概要」でも、②屋上緑化と③トイレ改修の記述が少なめになってしまったこととよく関係するところでしょう。 ①柱壁の補修における、斫り仕上げ(ビシャン仕上げ)補修に多く関心が及んだことは、指導教員の専門分野との関係性の密接さゆえです。千葉県立中央図書館の外観を大きく左右し、歴史

掲載していますメールアドレスの変更について(お詫びとお知らせ)

ブログに記事を書くのもしばらくぶり…数えると8か月ぶりのようで焦りますね。 『千葉県立中央図書館保存活用検討報告書』をまとめたのが3年前になりますが、 まとめてほどない頃は頻繁にメールチェックをして、マメに対応していましたが、それも頻度が落ち着いてきたと共に頻度が少なくなり…速やかなにメールをお返ししない状況をいくらか招くようになってしまいました。 我ながら杜撰な対応に反省するばかりで…保存活用活動専用のメールアドレスを示しておりましたが、このほど勤務先(千葉工業大学)のメールアドレスへと掲載を変更しました。 今さらメールをお返しするのも…というケースすらあり、この場を借りてご関係のみなさまに非礼をお詫び申し上げます。 ブログの更新頻度は怠慢そのものですが、新千葉県立図書館の建設の動向も相まって水面下では少しずつ動きが生じてきています。 また何か載せられる話題があれば、ブログにも掲載したく思っております。

千葉日報に取材いただいた記事が掲載になりました

ブログでの掲載がいくらか遅くなりましたが、『千葉日報』2023年7月14日(金)に「新施設建設後の行方は 専門家「貴重な文化資産」と題して、千葉県立中央図書館について取材いただいた記事が掲載されました。 地方新聞の掲載記事であり、Webニュースも有料記事ということで、(しかもブログに載せるわけにもいかず)広くはご覧いただけないのですが…活動記録として残しておきたく思います。 取材にあたられた記者の方は大変丁寧な対応で、千葉県の担当部署にも取材されて、すぐさま解体方針にあるわけではなく、まずは公共施設としての活用方法を検討する旨の回答が得られたことにふれてくれています。 先行きが保証されたわけではありませんが、検討の余地ありとしてスタンスがうかがえたところは有益な機会であったと思います。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案(千葉工業大学大学院建築学専攻:2023年度 建築設計保存改修特論)/ 課題概要と2023年度の傾向

4年目になりましたが、2023年度も千葉工業大学大学院建築学専攻「建築保存改修設計特論」にて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んで参りました。 全13週の授業スケジュールを終えて、2023年度の最終成果がまとまりました。 課題概要は過年度と同様で、2019年11月の ワークショップ を通じてまとめられた7つの活用方法を基に過去最多となります履修学生23名を3~4名ずつ下記7チームに分けて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みました。 Aチーム:アートスペース   (建築の魅力を活かした「アートスペース」としての活用) Bチーム:ライブラリー   (あえて「ライブラリー」として活用) Cチーム:コンバージョン   (機能を挿入した「コンバージョン」としての活用) Dチーム:ワークスペース   (一時的な使用となる「ワークスペース」としての活用) Eチーム:アタッチスペース   (近隣施設の「アタッチスペース」としての活用) Fチーム:レガシー   (千葉文化の森の「レガシー」としての活用(プレグリッドシステムの架構を保存)) Gチーム:レンタルスペース   (一定期間の借用となる「レンタルスペース」としての活用) 例年と同様にまずは全体的な傾向を述べておきたいと思います。 2023年度は全体を通じて、ややレトリックに近いストーリーからコンセプトを固め、これに基づいて保存活用設計提案にアプローチする観念的な傾向があり、これまでの学年と印象を違える点で興味深いものでした。大きな視座から臨むであったり、発想の転換で価値観や見方を変えようとするスタンスは、大学院生として必要な資質だろうと思います。 一方で、2022年度に目立ったエスプラナードとの関係性に着目する傾向はあまり見られず、千葉県立中央図書館の建築を自らの作品性を高めるのに積極的に活かそうとするのも控えめな印象を見受けました。かといって既存建築の継承を徹底するスタンスかというとそうとも言い切れず…総じて既存のコンテクストに与してデザイン・設計に取り組むことが覚束ない、そのように感じられるところでした。 チーム編成においても2023年度は同じ研究室の学生でかたまる傾向が多かったことも気になりました。ただ、近しい間柄だから設計・提案がスムーズに進むかというと必ずしもそうとは限らなく、協働でも

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Gチーム:レンタルスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるGチーム:レンタルスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] レンタルスペースをテーマとしたGチームは、既存の建築を長期に及んで活用し続けられる状態を維持すること、つまりは建築の継承に資する活用方法は広義では全てレンタルスペースになるというロジックを説き、これを基に保存改修設計提案を検討しました。 この方針は言い換えれば、既存の建築に極力手を加えない保存を最重視するものとなり、これに過度に影響を及ぼさないために鉄骨材によるスレンダーなフレーム(ボックス)でプログラムに資する設計手法を採用しました。 また、千葉県立中央図書館のポテンシャルを最大限に活かすことを視座に、建築を学ぶ者・建築に従事する者を主なターゲットとして、これらに資するプログラムでもって活用方法を設定しました。これにより千葉県立中央図書館が使い続けられる状態を生み出し、地域住民からの注目を高めることより波及させて地域の活性化に還元するという内容になりました。 [ 総 評 ] レンタルスペースのテーマは、恒常的利用によるプログラムの設定(さらには建築の形状に反映し難い側面も)の難易度が高いことが挙げられます。これに対して、建築の継承のために組み入れたプログラムはレンタルの理念に読み替えられるという考えを示されたことは、ややレトリックという感はあるものの発想の転換として巧みであり、唸らせるものでした。 千葉県立中央図書館の建築がもつポテンシャルを活かせるターゲットを建築に学ぶ者・従事する者として明確にし、図書館建築が建築計画の側面から有する開放的な閲覧室と閉鎖的な書庫のそれぞれにフィットしたプログラムを設定しており、総じてリアリティのある提案になったことも好ましいものでした。 Gチームの採った方針は、自ずと千葉県立中央図書館の建築に極力手を加えないことを意味するものとなり、歴史的建造物の保存活用に最も忠実なスタンスをもって臨んだ提案となりました。その意味で、本課題の出題意図に最も近く、多くデザインをもって改変を伴ってしまう提案が多い中では親近感を抱くところ

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Fチーム:レガシー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるFチーム:レガシーの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] レガシーをテーマにしたFチームは、中央部分をプレグリッドシステムの空間をそのまま継承し、西側を地域住民の活動に資するオープンスペース、東側をアート作品の展示場所(アートスペース)として大きく3つの性格をもつ空間を分けて形づくることでレガシーという難しいテーマへの回答を講じました。 Fチームは造形力に優れたメンバーで構成されたこともあって、中央部分を隔て、これを強調するに資するセラミックタイルによる「モザイクスクリーン」のような大壁面、アートスペースに展示空間を兼ねるコの字型をした耐震壁、3つのブロックを貫入してつなぐ光化学フィルムでカラーリングを施したチューブ形をした通路など、各所にコンテンポラリーアートを思わせる造形をもってアプローチし、彼らが「洞窟的」と表したプレグリッドシステムの重厚さに相克する新たな空間性の獲得を試みました。 [ 総 評 ] 機能の挿入に依らずに保存を講じる「変化球」的なテーマがレガシーです。いわゆるモダニズム建築の原理 ― プログラムによって建築を構成する ― をあえて封じるという大きな制約を伴う設計条件は、代々の学生が頭を悩ましてきたように今年度もこれにあたったFチームのメンバーを大いに苦しませるところとなりました。 検討途中では、設計が停滞してしまう様子も見受けましたが、最終的にややパワープレイとも映る手法とスタンス ― レガシーは、外部との関係性からストーリーを別に構築しないとならないため、テーマの性格上パワープレイを採る必要が多分にある ― で、最終的に着地させたことに、やはり力のあるチームであることを実感しましたし、このことは褒められてよいと思いました。 Fチームの提案から、造形のもつ雄弁さを再確認するところではありましたが、プロジェクトの実現性を高めるにはプロセスの透明性とその言語化が必要とも感じました。 実際のプロジェクトではこのほかにも乗り越えないとならない強大な壁 ― 費用とコストパフォーマンス(さらに工期も) ― が

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Eチーム:アタッチスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるEチーム:アタッチスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館を何らかの付属施設として活用するアタッチスペースをテーマにしたEチームが選択したのは千葉市立郷土博物館の分館としてでした。 現地調査の折に戦争体験をした地域の方と接し、話をうかがった経験から戦後昭和の展示拡充を方針として、ここに広く地域住民の居場所を併設する提案となりました。これを千葉文化の森のエスプラナードを積極的に建築内部に引き込んで展開する設計手法を採り、また内部から見る風景をガラススクリーンで切り取って見せる方法を併用することで、千葉県立中央図書館と千葉文化の森との親和性をさらに高めことを試みています。 構造デザインの研究室所属の履修学生が3名もかたまってメンバーに与していたこともEチームの特長で、(年々ブラッシュアップされる)新たな耐震補強方法が講じられたことにも注目できるところとなりました。 [ 総 評 ] 現地で地域の方と接して千葉文化の森への愛着に感化されたことが提案の方向性を決定づけるものとなり、結果的に2023年度には少なかった千葉文化の森との関係性を強く意識した提案になりました。 保存改修設計提案にあたって既存建築に設計者自らが愛着をもつことは好ましいスタンスですが、今回はいささか感化され過ぎた印象も受けました。というのは、内外のつながりに意識が及ぶがあまり、肝心の千葉市立郷土博物館分館の機能検討がやや軽んじられてしまったように映り、このことはどうしてもアンバランスな印象を残すところとなってしまいました。 それにも増して驚かされたのは、耐震補強方法です。プレグリッドシステムの格子梁の間を貫く(1層ごとに柱を継ぐ)形で鉄骨柱を建て、これを横架材で繋がずにブレースのみでコアを構築する最小限の部材構成でもって耐震補強を試みられ、これをシミュレーションによって一応の性能を示されました。 通常の耐震補強 ― 壁の増し打ち、ブレースの挿入 ― は、既存躯体に直接的な影響を受けざるを得ませんが、この提案であれば上下は積層して貫か

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Dチーム:ワークスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるDチーム:ワークスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] ワークスペースをテーマとしたDチームがターゲットにしたのは、アドレスホッパーやノマドワーカー。いかにも現代らしいニーズの設定でしたが、多様とはいえ対象は個人であり、長時間・固定化して使用されない用途で施設規模を充足し得ないことから、これと併せて地域還元の方策として児童保育施設やカフェなどを併設し、さらに床パネルを除いて使用制限を図る「減築」によって全体の提案をまとめました。 [ 総 評 ] 本課題(千葉県立中央図書館の保存活用設計提案)の難しさの1つに5000㎡を超える大規模施設を充足するだけのプログラムの設定が容易ではないことが挙げられます。Dチームの提案もこの課題の解消に多く苦心しました。 大局的な視座から社会的課題に建築を通じてアプローチすることは好ましく映りますが、一方で建築はその土地に建つ不動産ですので、その地域におけるニーズにどう応えるかという視点も不可欠であろうと思います。この視点に立った時に、率直に述べてDチームの提案はいくらかアンバランスであるように映るものでした。 上述した提案の概要ではふれませんでしたが、材料分野の研究室所属の履修学生がいたことは、多く意匠系の学生が受講する本科目では特殊なチーム構成となり、耐震補強(「CFD化」と呼んだ鋼板による十字柱補強)のほかマテリアルと施工面からのアプローチでも提案が行われたことに特異性がよく表れており、好ましく見えました。…が、プログラムに相乗してこれに資するまでには及べていないところであり、最終的に分業のようになってしまったことは残念ではありました。 Dチームの取り組みを通じて、活用方法を新たに設定する上で大規模施設でこれを検討することの難しさを改めて考えさせられるところでした。現代の建築では、竣工をもって終わりとなることが一般的ですが、2期、3期と段階的に展開して一度に全てを使い切るような計画にしない ― 時間のデザインといえるでしょうか ― ことにこれを検討する上でのヒントがありそうだな

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Cチーム:コンバージョン

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるCチーム:コンバージョンの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] コンバージョンをテーマにしたCチームは、東京への通過点的性格からインバウンド消費額・宿泊日数が少ない千葉県の現状改善のために外国の方に向けた宿泊施設を併設した観光拠点(サイクルツーリズム基地)として、これを住民との交流に関連づけることで地域還元も視野に入れた提案を行いました。 [ 総 評 ] 千葉県立中央図書館は図書館機能を新施設に移す前提があるため、広義では他テーマも全てコンバージョンと言い得ます。その中でコンバージョンをテーマにする難しさは、ひとえに設定をいかにするか、です。 これをインバウンド受容という千葉県が抱えている問題に立脚することで提案としての説得力をもたせるものとしています。このことは確かに効果的であるように映りました。 それをサイクルツーリズムと日本食体験と設定しましたが、ニーズのマーケティングが十分とは言えなかったために、かつ外国の方がいない環境下での授業でエスキスを重ね、最終発表に及んだために手応えが得られないままに…となった感があり、その点では戦略的によいチョイスであったとは言い切れないようにも思われるところでした。 このことは宿泊施設という点でも垣間見られ、千葉県立中央図書館の建築的特徴を活かして空間を提案できているかというと…いくらか機能をセッティングしたに留まるレベルであったように映るところでした。 既存の建築のマテリアルが醸し出す空気感を扱うことは難しい…このあたりは指導側の力量不足ですね。反省です。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Bチーム:ライブラリー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるBチーム:ライブラリーの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館の建築が有する「パワー」が地域住民との心的距離感の背景にあるという捉え方を基に、新聞閲覧コーナーなどの市民の日常生活に近い機能はそのまま残し、さらに図書館の記憶を継承する本棚(図書)のシェア(個人・団体)、そして工房と農園という個人レベルのアクティビティの集積と共にこれらをグラデーションをイメージして緩やかにつなぐことをもって各種プログラムを配置する提案としました。 [ 総 評 ] 印象的であったのは、千葉県立中央図書館のもつフィジカルならびにメンタリティに圧迫される感を抱くという言葉でした。 誤解を恐れず言い換えれば、一種のハラスメントに近いネガティブな感覚をもたれたということです。 千葉県立中央図書館をはじめとした高度経済成長期に建てられた建築の数々に今の時代には成し得難いエネルギッシュさを感じ、これを漠然と「美しい時代」と捉えてきていたので…保存の是非に根差した本質を突かれたように思われて(自省の意味も含めて)非常に印象的なチームでした。 その「パワー」を中和するために、そして市民の愛着を構築するために個人レベルでの行為を集積するというアプローチも明快で(ライブラリーは図書館でなくなる前提条件が関係してプログラムの設定が難しいテーマのため)、千葉県立中央図書館の建築(行為を集積する器)と適度な距離感をもつことが過度に手を加えない形となり、やや後ろ向きでありつつも結果的に保存と親和性をもつところに帰結するという、なかなかに言語化し難い絶妙なバランスの上に成り立つ保存改修設計の提案になったことも大変に興味深いところでした。 こういうスタンスで臨むとハードとソフトが別々となり、時に当該の既存建築にプログラムを据えることの意味が読み取れない提案になってしまう危うさもあったりするのですが、これが乖離しなかったことは千葉県立中央図書館の建築から個人の行為を集積する形態を導いて、造形上の関係性を基に形に落とし込んだことが成功の要因だったのでしょう。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Aチーム:アートスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるAチーム:アートスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] アートスペースをテーマにしたAチーム(ArtだからAチームというワケではなく、たまたまです)は、大髙正人の思想と建築をアートと捉え、プレグリッドシステムの架構を千葉県文化会館のエントランスとなるゲート(エスプラナードの新設)として計画しました。 加えて、書庫には各所に窓を配して、これによって切り取られた風景を大髙正人の思想・建築を伝えるアートとして見せ、周辺の広場にアートパフォーマンス等を行えるよう設定することで「千葉文化の森」全体との親和性を図る提案になりました。 [ 総 評 ] アートスペースを安直に捉えれば「美術館」と解釈でき、そのコンバージョンというのが1つのわかりやすい解答になろうかと思いますが、安易にアートを入れる器にしない方針を選ばれ、レベルの高い設計提案を試みようとする姿勢はよく伝わりました。 ただ、千葉県立中央図書館をリスペクトすることで新たに付加することのない、いわば「マイナスのデザイン」の選択が連続した提案となっており、かといって全面的に保存するというスタンスとしていないことと相まって、どことなく消極的な印象を抱かせる面が感じられました。プレグリッドシステムの架構をゲートにするところに帰結したのは、レガシーのテーマと通底する形態の表れ方であり、その点は興味深く映りました(実際に2021年度のレガシーのテーマでは同様の方策を採っていました) 大髙正人の建築(千葉県立中央図書館・千葉県文化会館)= アート という図式が決まったまではよいものの、その建築に対して終始全体のまま、部分へと焦点をあてずに深入りできぬままに向き合い続けてしまったことが提案の解像度の粗さの根底にあるように感じられるところでした。 表層的・表面的な操作に留まったことは、かえってレトリックを思わせるような軽薄さとも映りかねない危うさもあり…既存建築といかに向き合い、そこから何を感受するかがクオリティを左右する保存改修設計の難しさが伝わってくるところで、苦労したんだろうな

2023年度も続いて取り組みます(千葉県立中央図書館の保存活用設計提案課題)

依然として更新頻度の乏しい本ブログですが、千葉工業大学大学院建築学専攻の大学院講義「建築保存改修設計特論」では、過年度に続いて2023年度も千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みます。 Aチーム:アートスペース Bチーム:ライブラリー Cチーム:コンバージョン Dチーム:ワークスペース      Eチーム:アタッチスペース Fチーム:レガシー Gチーム:レンタルスペース 2023年度は過年度に比べて履修学生が最も多く23名となりました。 上記のように各3名ないし4名の7チーム編成です。 成果報告も例年のように本ブログに掲載させていただきたく思っています。 優れた内容の保存活用設計提案がまとまるよう、履修学生みなさんの頑張りに期すると共に、成果は指導する側の力量にも左右すると思いますので、こちらも努めたく思います。

群造形とコンテクスト 「千葉文化の森」にみる大髙正人のコンテクストへの眼差し(シンポジウム「戦後昭和の建築の地域性」寄稿論文)

少し前になりますが、2022年3月2日に日本建築学会関東支部研究発表会の一環として関東支部建築歴史・意匠研究専門委員会主催で開催したシンポジウム「戦後昭和の建築の地域性」の資料集に寄稿しました論文「群造形とコンテクスト  「千葉文化の森」にみる大髙正人のコンテクストへの眼差し」の内容を掲載します(図版の掲載は控えるものとしました) ----------------------------------------- 「モダニズム建築」と呼ばれて、戦後昭和の日本に広く浸透した建築に「地域性」が見出し得るかを主旨に開催するのが今回のシンポジウムである。ここでいう「地域性」には広範な捉え方があると考えられ、その多様さが議論を経て浮き彫りになることを期待したい。 こうした「地域性」の1つには、風土的性格が挙げられるであろうが(これも気候、文化、歴史など多岐にわたる)、これを局所にまで絞れば、敷地の特性を活かした建築、一般にコンテクスト(コンテクスチュアリズム)と呼ぶものを加味した建築にも(狭義の)「地域性」がみられることになるだろう。 日本でコンテクストの概念が広まったのは1970年代に入ってからで、特にポストモダニズムの潮流と関連する形で1980年代に定着したという 1) 。これを先行すると考えられるものが、筆者が保存活用要望書 2) に関与し、保存活用に向けた活動を続けている千葉県立中央図書館(大髙正人・木村俊彦設計 1968年)に千葉県文化会館・聖賢堂(大髙正人・木村俊彦設計 1967年)と千葉市立郷土博物館(通称:千葉城、桑田昭設計 1967年)を加えた一連の文教建築群からなる「千葉文化の森」である。 「千葉文化の森」は、県庁や県警本部、地方裁判所などが建つ官庁街に近い亥鼻山と呼ぶ丘陵に造成された。亥鼻山は、豪族の千葉氏が平安時代末期に居城を構えた「千葉市発祥の地」として知られる旧跡である。戦前には、北側に亥鼻公園(市有地)、南側の大部分に千葉師範学校(現・千葉大学教育学部、国有地)が置かれ、千葉大学の西千葉キャンパス移転を契機に県有地となった経緯から、県(多目的ホール、結婚式場、図書館)と市(郷土博物館)のそれぞれの施設が併設されている 3) 。県・市の首長と職員による「ゐのはな公園文化の森造成委員会」 4) を組織して計画を進めたが、建築事業は県と市が別々で遂行し

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Fチーム:ライブラリー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるFチーム:ライブラリーの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] Fチームはライブラリーをテーマにしましたが、千葉県立中央図書館は新たな県立図書館が建てられることで図書館ではなくなることを前提にしますので、ここにどのようなライブラリーを計画するかという、まるで禅問答のようなつかみどころのない性格をもつテーマでもあります。 ここで提案されたのは、本を媒介にした知識との新たな出会いの場。来場者は書架から自由に書籍を持ってきて読むわけですが、これを使用後に書架には一定期間戻さないで、他の利用者が書架から本を持ってきて同じ場所を使用した時に元々置いていかれた本を手に取って、本を媒介にした図書館とは異なる空間体験を行いたいという提案でした。 この空間体験に資するのが、プレグリッド・システムの床パネルを全て抜いて、新たに館内に挿入した構造体によって、既存のプレグリッド・システムが机になり、書架になり、椅子になり‥‥と、多様な床レベルをもつ分節されながら一体化された建築形態で、それは明らかに千葉県立中央図書館を継承しながら、それでいて明らかに千葉県立中央図書館とは異なる建築空間が目指されたものでもありました。 [ 総 評 ] ライブラリーをどのように解釈するかというテーマですが、Fチームが目指したのは「管理されない図書館」というような観念的なプログラムでした。これを民間で建築的な魅力を理解する財団によって活用することを前提に設計を展開するという‥‥ややパワープレイとも映るストーリーですが、ライブラリーというテーマそのものが捻くれた性格をもちますので、これくらい割り切った設定もありかなと思いました。 というのは、プレグリッド・システムの格子梁を空間装置としてダイナミックに置換するのは非常に魅力的で、それでいて革新的な保存改修設計提案の可能性が期待できると思ったところにありました。 ただ、その魅力に気づいていたかは疑わしい。既存のプレグリッド・システムに様々なレベルで纏わりつくスラブは十分に表現に及んでいないように映りますし、何より水平性の