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千葉県立中央図書館の保存活用に向けて(ご挨拶/ブログ開設主旨)

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千葉県立中央図書館は、建築家・大髙正人(1923-2010)の設計で、構造家・木村俊彦 (1926-2009) が考案した「プレグリッド・システム」を用いて1968年に竣工した建築です。 2003年にはDOCOMOMO Japan選定建築に選ばれるなど、かねてより高い評価を得てきた戦後モダニズム建築の代表作として知られてきた建築ですが、 2019年6月に新たに千葉県立図書館を建設することが決まったことで、50数年に亘って担ってきた図書館としての役割を失うことになりました。 千葉県立中央図書館は後世・未来に継承するに相応しい優れた文化資産であり、 保存活用を検討するために取り組んだ活動記録としてブログにまとめることにしました。 ブログにまとめた一連の活動記録が広く千葉県立中央図書館の保存活用の意義を理解していただく一助になれば幸いです。 事務局:藤木竜也 (千葉工業大学創造工学部建築学科  准教授) 千葉県立中央図書館_保存活用活動  専用メールアドレス: p.u. cpcl@gmail.com 研究室URL: https://marufuji.wixsite.com/fujiken

掲載していますメールアドレスの変更について(お詫びとお知らせ)

ブログに記事を書くのもしばらくぶり…数えると8か月ぶりのようで焦りますね。 『千葉県立中央図書館保存活用検討報告書』をまとめたのが3年前になりますが、 まとめてほどない頃は頻繁にメールチェックをして、マメに対応していましたが、それも頻度が落ち着いてきたと共に頻度が少なくなり…速やかなにメールをお返ししない状況をいくらか招くようになってしまいました。 我ながら杜撰な対応に反省するばかりで…保存活用活動専用のメールアドレスを示しておりましたが、このほど勤務先(千葉工業大学)のメールアドレスへと掲載を変更しました。 今さらメールをお返しするのも…というケースすらあり、この場を借りてご関係のみなさまに非礼をお詫び申し上げます。 ブログの更新頻度は怠慢そのものですが、新千葉県立図書館の建設の動向も相まって水面下では少しずつ動きが生じてきています。 また何か載せられる話題があれば、ブログにも掲載したく思っております。

千葉日報に取材いただいた記事が掲載になりました

ブログでの掲載がいくらか遅くなりましたが、『千葉日報』2023年7月14日(金)に「新施設建設後の行方は 専門家「貴重な文化資産」と題して、千葉県立中央図書館について取材いただいた記事が掲載されました。 地方新聞の掲載記事であり、Webニュースも有料記事ということで、(しかもブログに載せるわけにもいかず)広くはご覧いただけないのですが…活動記録として残しておきたく思います。 取材にあたられた記者の方は大変丁寧な対応で、千葉県の担当部署にも取材されて、すぐさま解体方針にあるわけではなく、まずは公共施設としての活用方法を検討する旨の回答が得られたことにふれてくれています。 先行きが保証されたわけではありませんが、検討の余地ありとしてスタンスがうかがえたところは有益な機会であったと思います。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案(千葉工業大学大学院建築学専攻:2023年度 建築設計保存改修特論)/ 課題概要と2023年度の傾向

4年目になりましたが、2023年度も千葉工業大学大学院建築学専攻「建築保存改修設計特論」にて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んで参りました。 全13週の授業スケジュールを終えて、2023年度の最終成果がまとまりました。 課題概要は過年度と同様で、2019年11月の ワークショップ を通じてまとめられた7つの活用方法を基に過去最多となります履修学生23名を3~4名ずつ下記7チームに分けて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みました。 Aチーム:アートスペース   (建築の魅力を活かした「アートスペース」としての活用) Bチーム:ライブラリー   (あえて「ライブラリー」として活用) Cチーム:コンバージョン   (機能を挿入した「コンバージョン」としての活用) Dチーム:ワークスペース   (一時的な使用となる「ワークスペース」としての活用) Eチーム:アタッチスペース   (近隣施設の「アタッチスペース」としての活用) Fチーム:レガシー   (千葉文化の森の「レガシー」としての活用(プレグリッドシステムの架構を保存)) Gチーム:レンタルスペース   (一定期間の借用となる「レンタルスペース」としての活用) 例年と同様にまずは全体的な傾向を述べておきたいと思います。 2023年度は全体を通じて、ややレトリックに近いストーリーからコンセプトを固め、これに基づいて保存活用設計提案にアプローチする観念的な傾向があり、これまでの学年と印象を違える点で興味深いものでした。大きな視座から臨むであったり、発想の転換で価値観や見方を変えようとするスタンスは、大学院生として必要な資質だろうと思います。 一方で、2022年度に目立ったエスプラナードとの関係性に着目する傾向はあまり見られず、千葉県立中央図書館の建築を自らの作品性を高めるのに積極的に活かそうとするのも控えめな印象を見受けました。かといって既存建築の継承を徹底するスタンスかというとそうとも言い切れず…総じて既存のコンテクストに与してデザイン・設計に取り組むことが覚束ない、そのように感じられるところでした。 チーム編成においても2023年度は同じ研究室の学生でかたまる傾向が多かったことも気になりました。ただ、近しい間柄だから設計・提案がスムーズに進むかというと必ずしもそうとは限らなく、協働でも

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Gチーム:レンタルスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるGチーム:レンタルスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] レンタルスペースをテーマとしたGチームは、既存の建築を長期に及んで活用し続けられる状態を維持すること、つまりは建築の継承に資する活用方法は広義では全てレンタルスペースになるというロジックを説き、これを基に保存改修設計提案を検討しました。 この方針は言い換えれば、既存の建築に極力手を加えない保存を最重視するものとなり、これに過度に影響を及ぼさないために鉄骨材によるスレンダーなフレーム(ボックス)でプログラムに資する設計手法を採用しました。 また、千葉県立中央図書館のポテンシャルを最大限に活かすことを視座に、建築を学ぶ者・建築に従事する者を主なターゲットとして、これらに資するプログラムでもって活用方法を設定しました。これにより千葉県立中央図書館が使い続けられる状態を生み出し、地域住民からの注目を高めることより波及させて地域の活性化に還元するという内容になりました。 [ 総 評 ] レンタルスペースのテーマは、恒常的利用によるプログラムの設定(さらには建築の形状に反映し難い側面も)の難易度が高いことが挙げられます。これに対して、建築の継承のために組み入れたプログラムはレンタルの理念に読み替えられるという考えを示されたことは、ややレトリックという感はあるものの発想の転換として巧みであり、唸らせるものでした。 千葉県立中央図書館の建築がもつポテンシャルを活かせるターゲットを建築に学ぶ者・従事する者として明確にし、図書館建築が建築計画の側面から有する開放的な閲覧室と閉鎖的な書庫のそれぞれにフィットしたプログラムを設定しており、総じてリアリティのある提案になったことも好ましいものでした。 Gチームの採った方針は、自ずと千葉県立中央図書館の建築に極力手を加えないことを意味するものとなり、歴史的建造物の保存活用に最も忠実なスタンスをもって臨んだ提案となりました。その意味で、本課題の出題意図に最も近く、多くデザインをもって改変を伴ってしまう提案が多い中では親近感を抱くところ

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Fチーム:レガシー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるFチーム:レガシーの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] レガシーをテーマにしたFチームは、中央部分をプレグリッドシステムの空間をそのまま継承し、西側を地域住民の活動に資するオープンスペース、東側をアート作品の展示場所(アートスペース)として大きく3つの性格をもつ空間を分けて形づくることでレガシーという難しいテーマへの回答を講じました。 Fチームは造形力に優れたメンバーで構成されたこともあって、中央部分を隔て、これを強調するに資するセラミックタイルによる「モザイクスクリーン」のような大壁面、アートスペースに展示空間を兼ねるコの字型をした耐震壁、3つのブロックを貫入してつなぐ光化学フィルムでカラーリングを施したチューブ形をした通路など、各所にコンテンポラリーアートを思わせる造形をもってアプローチし、彼らが「洞窟的」と表したプレグリッドシステムの重厚さに相克する新たな空間性の獲得を試みました。 [ 総 評 ] 機能の挿入に依らずに保存を講じる「変化球」的なテーマがレガシーです。いわゆるモダニズム建築の原理 ― プログラムによって建築を構成する ― をあえて封じるという大きな制約を伴う設計条件は、代々の学生が頭を悩ましてきたように今年度もこれにあたったFチームのメンバーを大いに苦しませるところとなりました。 検討途中では、設計が停滞してしまう様子も見受けましたが、最終的にややパワープレイとも映る手法とスタンス ― レガシーは、外部との関係性からストーリーを別に構築しないとならないため、テーマの性格上パワープレイを採る必要が多分にある ― で、最終的に着地させたことに、やはり力のあるチームであることを実感しましたし、このことは褒められてよいと思いました。 Fチームの提案から、造形のもつ雄弁さを再確認するところではありましたが、プロジェクトの実現性を高めるにはプロセスの透明性とその言語化が必要とも感じました。 実際のプロジェクトではこのほかにも乗り越えないとならない強大な壁 ― 費用とコストパフォーマンス(さらに工期も) ― が

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Eチーム:アタッチスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるEチーム:アタッチスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館を何らかの付属施設として活用するアタッチスペースをテーマにしたEチームが選択したのは千葉市立郷土博物館の分館としてでした。 現地調査の折に戦争体験をした地域の方と接し、話をうかがった経験から戦後昭和の展示拡充を方針として、ここに広く地域住民の居場所を併設する提案となりました。これを千葉文化の森のエスプラナードを積極的に建築内部に引き込んで展開する設計手法を採り、また内部から見る風景をガラススクリーンで切り取って見せる方法を併用することで、千葉県立中央図書館と千葉文化の森との親和性をさらに高めことを試みています。 構造デザインの研究室所属の履修学生が3名もかたまってメンバーに与していたこともEチームの特長で、(年々ブラッシュアップされる)新たな耐震補強方法が講じられたことにも注目できるところとなりました。 [ 総 評 ] 現地で地域の方と接して千葉文化の森への愛着に感化されたことが提案の方向性を決定づけるものとなり、結果的に2023年度には少なかった千葉文化の森との関係性を強く意識した提案になりました。 保存改修設計提案にあたって既存建築に設計者自らが愛着をもつことは好ましいスタンスですが、今回はいささか感化され過ぎた印象も受けました。というのは、内外のつながりに意識が及ぶがあまり、肝心の千葉市立郷土博物館分館の機能検討がやや軽んじられてしまったように映り、このことはどうしてもアンバランスな印象を残すところとなってしまいました。 それにも増して驚かされたのは、耐震補強方法です。プレグリッドシステムの格子梁の間を貫く(1層ごとに柱を継ぐ)形で鉄骨柱を建て、これを横架材で繋がずにブレースのみでコアを構築する最小限の部材構成でもって耐震補強を試みられ、これをシミュレーションによって一応の性能を示されました。 通常の耐震補強 ― 壁の増し打ち、ブレースの挿入 ― は、既存躯体に直接的な影響を受けざるを得ませんが、この提案であれば上下は積層して貫か

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Dチーム:ワークスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるDチーム:ワークスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] ワークスペースをテーマとしたDチームがターゲットにしたのは、アドレスホッパーやノマドワーカー。いかにも現代らしいニーズの設定でしたが、多様とはいえ対象は個人であり、長時間・固定化して使用されない用途で施設規模を充足し得ないことから、これと併せて地域還元の方策として児童保育施設やカフェなどを併設し、さらに床パネルを除いて使用制限を図る「減築」によって全体の提案をまとめました。 [ 総 評 ] 本課題(千葉県立中央図書館の保存活用設計提案)の難しさの1つに5000㎡を超える大規模施設を充足するだけのプログラムの設定が容易ではないことが挙げられます。Dチームの提案もこの課題の解消に多く苦心しました。 大局的な視座から社会的課題に建築を通じてアプローチすることは好ましく映りますが、一方で建築はその土地に建つ不動産ですので、その地域におけるニーズにどう応えるかという視点も不可欠であろうと思います。この視点に立った時に、率直に述べてDチームの提案はいくらかアンバランスであるように映るものでした。 上述した提案の概要ではふれませんでしたが、材料分野の研究室所属の履修学生がいたことは、多く意匠系の学生が受講する本科目では特殊なチーム構成となり、耐震補強(「CFD化」と呼んだ鋼板による十字柱補強)のほかマテリアルと施工面からのアプローチでも提案が行われたことに特異性がよく表れており、好ましく見えました。…が、プログラムに相乗してこれに資するまでには及べていないところであり、最終的に分業のようになってしまったことは残念ではありました。 Dチームの取り組みを通じて、活用方法を新たに設定する上で大規模施設でこれを検討することの難しさを改めて考えさせられるところでした。現代の建築では、竣工をもって終わりとなることが一般的ですが、2期、3期と段階的に展開して一度に全てを使い切るような計画にしない ― 時間のデザインといえるでしょうか ― ことにこれを検討する上でのヒントがありそうだな

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Cチーム:コンバージョン

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるCチーム:コンバージョンの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] コンバージョンをテーマにしたCチームは、東京への通過点的性格からインバウンド消費額・宿泊日数が少ない千葉県の現状改善のために外国の方に向けた宿泊施設を併設した観光拠点(サイクルツーリズム基地)として、これを住民との交流に関連づけることで地域還元も視野に入れた提案を行いました。 [ 総 評 ] 千葉県立中央図書館は図書館機能を新施設に移す前提があるため、広義では他テーマも全てコンバージョンと言い得ます。その中でコンバージョンをテーマにする難しさは、ひとえに設定をいかにするか、です。 これをインバウンド受容という千葉県が抱えている問題に立脚することで提案としての説得力をもたせるものとしています。このことは確かに効果的であるように映りました。 それをサイクルツーリズムと日本食体験と設定しましたが、ニーズのマーケティングが十分とは言えなかったために、かつ外国の方がいない環境下での授業でエスキスを重ね、最終発表に及んだために手応えが得られないままに…となった感があり、その点では戦略的によいチョイスであったとは言い切れないようにも思われるところでした。 このことは宿泊施設という点でも垣間見られ、千葉県立中央図書館の建築的特徴を活かして空間を提案できているかというと…いくらか機能をセッティングしたに留まるレベルであったように映るところでした。 既存の建築のマテリアルが醸し出す空気感を扱うことは難しい…このあたりは指導側の力量不足ですね。反省です。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Bチーム:ライブラリー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるBチーム:ライブラリーの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館の建築が有する「パワー」が地域住民との心的距離感の背景にあるという捉え方を基に、新聞閲覧コーナーなどの市民の日常生活に近い機能はそのまま残し、さらに図書館の記憶を継承する本棚(図書)のシェア(個人・団体)、そして工房と農園という個人レベルのアクティビティの集積と共にこれらをグラデーションをイメージして緩やかにつなぐことをもって各種プログラムを配置する提案としました。 [ 総 評 ] 印象的であったのは、千葉県立中央図書館のもつフィジカルならびにメンタリティに圧迫される感を抱くという言葉でした。 誤解を恐れず言い換えれば、一種のハラスメントに近いネガティブな感覚をもたれたということです。 千葉県立中央図書館をはじめとした高度経済成長期に建てられた建築の数々に今の時代には成し得難いエネルギッシュさを感じ、これを漠然と「美しい時代」と捉えてきていたので…保存の是非に根差した本質を突かれたように思われて(自省の意味も含めて)非常に印象的なチームでした。 その「パワー」を中和するために、そして市民の愛着を構築するために個人レベルでの行為を集積するというアプローチも明快で(ライブラリーは図書館でなくなる前提条件が関係してプログラムの設定が難しいテーマのため)、千葉県立中央図書館の建築(行為を集積する器)と適度な距離感をもつことが過度に手を加えない形となり、やや後ろ向きでありつつも結果的に保存と親和性をもつところに帰結するという、なかなかに言語化し難い絶妙なバランスの上に成り立つ保存改修設計の提案になったことも大変に興味深いところでした。 こういうスタンスで臨むとハードとソフトが別々となり、時に当該の既存建築にプログラムを据えることの意味が読み取れない提案になってしまう危うさもあったりするのですが、これが乖離しなかったことは千葉県立中央図書館の建築から個人の行為を集積する形態を導いて、造形上の関係性を基に形に落とし込んだことが成功の要因だったのでしょう。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2023年度 / Aチーム:アートスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2023年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるAチーム:アートスペースの提案内容です。 課題概要と2023年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] アートスペースをテーマにしたAチーム(ArtだからAチームというワケではなく、たまたまです)は、大髙正人の思想と建築をアートと捉え、プレグリッドシステムの架構を千葉県文化会館のエントランスとなるゲート(エスプラナードの新設)として計画しました。 加えて、書庫には各所に窓を配して、これによって切り取られた風景を大髙正人の思想・建築を伝えるアートとして見せ、周辺の広場にアートパフォーマンス等を行えるよう設定することで「千葉文化の森」全体との親和性を図る提案になりました。 [ 総 評 ] アートスペースを安直に捉えれば「美術館」と解釈でき、そのコンバージョンというのが1つのわかりやすい解答になろうかと思いますが、安易にアートを入れる器にしない方針を選ばれ、レベルの高い設計提案を試みようとする姿勢はよく伝わりました。 ただ、千葉県立中央図書館をリスペクトすることで新たに付加することのない、いわば「マイナスのデザイン」の選択が連続した提案となっており、かといって全面的に保存するというスタンスとしていないことと相まって、どことなく消極的な印象を抱かせる面が感じられました。プレグリッドシステムの架構をゲートにするところに帰結したのは、レガシーのテーマと通底する形態の表れ方であり、その点は興味深く映りました(実際に2021年度のレガシーのテーマでは同様の方策を採っていました) 大髙正人の建築(千葉県立中央図書館・千葉県文化会館)= アート という図式が決まったまではよいものの、その建築に対して終始全体のまま、部分へと焦点をあてずに深入りできぬままに向き合い続けてしまったことが提案の解像度の粗さの根底にあるように感じられるところでした。 表層的・表面的な操作に留まったことは、かえってレトリックを思わせるような軽薄さとも映りかねない危うさもあり…既存建築といかに向き合い、そこから何を感受するかがクオリティを左右する保存改修設計の難しさが伝わってくるところで、苦労したんだろうな

2023年度も続いて取り組みます(千葉県立中央図書館の保存活用設計提案課題)

依然として更新頻度の乏しい本ブログですが、千葉工業大学大学院建築学専攻の大学院講義「建築保存改修設計特論」では、過年度に続いて2023年度も千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みます。 Aチーム:アートスペース Bチーム:ライブラリー Cチーム:コンバージョン Dチーム:ワークスペース      Eチーム:アタッチスペース Fチーム:レガシー Gチーム:レンタルスペース 2023年度は過年度に比べて履修学生が最も多く23名となりました。 上記のように各3名ないし4名の7チーム編成です。 成果報告も例年のように本ブログに掲載させていただきたく思っています。 優れた内容の保存活用設計提案がまとまるよう、履修学生みなさんの頑張りに期すると共に、成果は指導する側の力量にも左右すると思いますので、こちらも努めたく思います。

群造形とコンテクスト 「千葉文化の森」にみる大髙正人のコンテクストへの眼差し(シンポジウム「戦後昭和の建築の地域性」寄稿論文)

少し前になりますが、2022年3月2日に日本建築学会関東支部研究発表会の一環として関東支部建築歴史・意匠研究専門委員会主催で開催したシンポジウム「戦後昭和の建築の地域性」の資料集に寄稿しました論文「群造形とコンテクスト  「千葉文化の森」にみる大髙正人のコンテクストへの眼差し」の内容を掲載します(図版の掲載は控えるものとしました) ----------------------------------------- 「モダニズム建築」と呼ばれて、戦後昭和の日本に広く浸透した建築に「地域性」が見出し得るかを主旨に開催するのが今回のシンポジウムである。ここでいう「地域性」には広範な捉え方があると考えられ、その多様さが議論を経て浮き彫りになることを期待したい。 こうした「地域性」の1つには、風土的性格が挙げられるであろうが(これも気候、文化、歴史など多岐にわたる)、これを局所にまで絞れば、敷地の特性を活かした建築、一般にコンテクスト(コンテクスチュアリズム)と呼ぶものを加味した建築にも(狭義の)「地域性」がみられることになるだろう。 日本でコンテクストの概念が広まったのは1970年代に入ってからで、特にポストモダニズムの潮流と関連する形で1980年代に定着したという 1) 。これを先行すると考えられるものが、筆者が保存活用要望書 2) に関与し、保存活用に向けた活動を続けている千葉県立中央図書館(大髙正人・木村俊彦設計 1968年)に千葉県文化会館・聖賢堂(大髙正人・木村俊彦設計 1967年)と千葉市立郷土博物館(通称:千葉城、桑田昭設計 1967年)を加えた一連の文教建築群からなる「千葉文化の森」である。 「千葉文化の森」は、県庁や県警本部、地方裁判所などが建つ官庁街に近い亥鼻山と呼ぶ丘陵に造成された。亥鼻山は、豪族の千葉氏が平安時代末期に居城を構えた「千葉市発祥の地」として知られる旧跡である。戦前には、北側に亥鼻公園(市有地)、南側の大部分に千葉師範学校(現・千葉大学教育学部、国有地)が置かれ、千葉大学の西千葉キャンパス移転を契機に県有地となった経緯から、県(多目的ホール、結婚式場、図書館)と市(郷土博物館)のそれぞれの施設が併設されている 3) 。県・市の首長と職員による「ゐのはな公園文化の森造成委員会」 4) を組織して計画を進めたが、建築事業は県と市が別々で遂行し

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Fチーム:ライブラリー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるFチーム:ライブラリーの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] Fチームはライブラリーをテーマにしましたが、千葉県立中央図書館は新たな県立図書館が建てられることで図書館ではなくなることを前提にしますので、ここにどのようなライブラリーを計画するかという、まるで禅問答のようなつかみどころのない性格をもつテーマでもあります。 ここで提案されたのは、本を媒介にした知識との新たな出会いの場。来場者は書架から自由に書籍を持ってきて読むわけですが、これを使用後に書架には一定期間戻さないで、他の利用者が書架から本を持ってきて同じ場所を使用した時に元々置いていかれた本を手に取って、本を媒介にした図書館とは異なる空間体験を行いたいという提案でした。 この空間体験に資するのが、プレグリッド・システムの床パネルを全て抜いて、新たに館内に挿入した構造体によって、既存のプレグリッド・システムが机になり、書架になり、椅子になり‥‥と、多様な床レベルをもつ分節されながら一体化された建築形態で、それは明らかに千葉県立中央図書館を継承しながら、それでいて明らかに千葉県立中央図書館とは異なる建築空間が目指されたものでもありました。 [ 総 評 ] ライブラリーをどのように解釈するかというテーマですが、Fチームが目指したのは「管理されない図書館」というような観念的なプログラムでした。これを民間で建築的な魅力を理解する財団によって活用することを前提に設計を展開するという‥‥ややパワープレイとも映るストーリーですが、ライブラリーというテーマそのものが捻くれた性格をもちますので、これくらい割り切った設定もありかなと思いました。 というのは、プレグリッド・システムの格子梁を空間装置としてダイナミックに置換するのは非常に魅力的で、それでいて革新的な保存改修設計提案の可能性が期待できると思ったところにありました。 ただ、その魅力に気づいていたかは疑わしい。既存のプレグリッド・システムに様々なレベルで纏わりつくスラブは十分に表現に及んでいないように映りますし、何より水平性の

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Eチーム:レンタルスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるEチーム:レンタルスペースの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] テーマ選定にあたっては希望されるもの上位3テーマを回答して、なるべく順位の高いものを優先して希望者をチームとして構成していくという形で決定するのですが、Eチームになった3名はいずれも第1希望が定員超過、第2希望同士でチームに出来るという流れでメンバーとなったチームです。 要するにテーマとなるレンタルスペースが第1希望でなかったことによるためか、これに相応しいプログラムがなかなか決められず、早々のうちに千葉県立中央図書館の建築形態を造形的に追及する方針へと転じ、強度不足部分のプレグリッド・システムは部分解体して周囲に散開させると共に開口部を全面的に取り除いて内部にエスプラナードを挿入させ、千葉文化の森に点在する主に円形の造形を抽出して千葉県立中央図書館内に散りばめた屋根下空間を形成するという提案になりました。 [ 総 評 ] 千葉県立中央図書館内に①複層的に形成されたエスプラナードを再置し、ここに②プレグリッド・システムの格子梁を周囲に散開させ、③千葉文化の森に点在している造形をパタンランゲージとして抽出して散りばめることで、大屋根の下に広がるエスプラナードとして空間を翻訳したという非常に明快なロジックを組み立てました。 幾度と千葉文化の森に足を運んでリサーチを重ねられたようで、地道なアプローチが実を結んだ提案だと思われました。その明快さの影響力は大きく、中間発表で内容を聞き及んだ他チームが千葉県立中央図書館の 建築が持つポテンシャルの造形的追求というアプローチを採るに及び、2022年度の全体的な傾向はEチームの存在を抜きにして語れないほどでした。これが第2希望同士が集まったチームから発生したというところに設計指導の面白さがあるところです。 一方で俯瞰した立場からロジックに従って落とし込むというスタンスで臨んだために、どことなくパズルのような印象も残り、情緒のある豊かな内部空間が築けたかというといくらか疑問も残りました。レンタルスペースではあったのですが、

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Dチーム:コンバージョン

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるDチーム:コンバージョンの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 意匠系研究室の大学院生の履修が多い本科目にあって珍しい構造デザイン研究室(2名)と材料系研究室にそれぞれ所属する3名というメンバー構成がDチームになりました。 そんなエンジニアリングに特化したチームが目指したのは、千葉県立中央図書館に採用された希少な構造システムであるプレグリッド・システムの価値を継承する耐震システムの提案とこれに適用できる緑化システムの提案でした。 [ 総 評 ] Dチームのテーマはコンバージョン。レガシーを除く他テーマも何らかのプログラムを設定する以上は広義ではコンバージョンしていることになりますが、このことは言い換えれば、コンバージョンのテーマというのは、プログラムを厳格に定めずに何にでもプログラムを入れられる状態であるハコとすることが提案として成立するのを意味しているとも言えます。 コンバージョンをテーマに選んだエンジニアリングに特化したメンバーで構成されたチームが向かった先が、プレグリッド・システムをベースにそれぞれの専門領域である構造と材料を適用させて継承に資する耐震補強システムと緑化システムの提案となったのも必然であったのかもしれません(県緑化推進委員会が管轄する施設という一応の設定を敷いていますが、エンジニアリングによるアプローチを設定できる口実程度の位置づけです) 耐震補強システムは、プレグリッド・システムがプレキャスト+プレストレストの技術を下地に格子梁の拡幅によって水平方向に天衣無縫に広がりを持たせられるという理念を引き継ぎこれに挿入する垂直方向の耐震壁に置き換えたというもの。シミュレーションによってブロック形状を決定し、施工プロセスまでを示しておられ、具体的な提案にまで踏み込んでいることは見事でした。 緑化システムもプレグリッド・システムの梁せいと強度負荷を基に植栽できる草木の高さも設定されていて、これが建物内に点在する様子はなかなかに魅力的なものに映ります(もっとも散水などの設備的な部分については検討が及べていない

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Cチーム:レガシー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるCチーム:レガシーの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] Cチームのテーマはレガシー。躯体のみを継承するというテーマ上の制約からスペキュラティブデザインの理念を基に、これにインスタレーションを内包する「スペキュラティブアート」のフィールドとする提案です。 設置された「スペキュラティブアート」は3つで、屋根を格子梁のみとして地下にまで光を落として体感するライトウェル、ガラスボックスで囲んだプレグリッド・システムの柱、地表面と建築が融合したスラブによるそれぞれのアートをもつ風景に近い空間です。 [ 総 評 ] レガシーは、プレグリッド・システムをはじめとした千葉県立中央図書館の躯体だけを継承できる方法を模索する保存活用設計提案ですが、プログラムからアプロ―チが出来ないという特異なテーマだけにCチームのメンバーも大いに頭を悩ましていました。 苦心の末に至った形態は、わずかな操作で風景としながら、埋め込まれた「違和感」から思索を誘引しようとする「スペキュラティブアート」になりました。ロジックは大変に興味深いといえましたが、あまりにささやかなので気づかないのでは?という他チームからの質問はもっともともいえました。 また、本提案の引き合いに出されたのが、大阪万博のモニュメント・太陽の塔。アートとして残ることで場の記憶が形成されるという考え方は唸らされる面もありましたが、形態的には太陽の塔よりはお祭り広場に近い。千葉文化の森には彫刻等のアートが点在しているので、野外展示を新たに設置してこれを覆う大屋根として、エスプラナードを引き込んで一体化するという提案はアリかも?と思われました。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Bチーム:アタッチスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるBチーム:アタッチスペースの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] Bチームのテーマはアタッチスペースで、千葉市内各地で運営するフリースクール・子ども食堂・子どもルーム・プレーパークを1つにまとめて新たな拠点とするという提案です。 2022年度は全体的に千葉県立中央図書館(特にプレグリッド・システム)の造形的可能性の追求、エスプラナードの拡大・拡幅という傾向がみられた中では比較的珍しい千葉県立中央図書館の既存建築を純度高く継承していこうというスタンスで、改変に伴う既存部分の改修も最低限にとどめています。これはフリースクールと歴史的建造物のネガティブなイメージを一緒にすることで共に刷新したい!という意向に基づいたということでした。 [ 総 評 ] アタッチスペースのテーマが他機関ないし他施設との関係性に基づかなければならない性格があることにもよりますが、丁寧なリサーチに基づいてプログラムを決定し、施設内のレイアウトを決めていった社会的な眼差しを終始大切にし続けた着実な提案でした。 既存の建築を継承するために躯体にはほとんど手を入れていませんが、内部空間を変えるために重厚なコンクリートに対して軽量素材を適用している点は、選択として理解は出来ましたが、フリースクールの運営上はどうか?という点は疑問がないとは言えません。それは、そもそもフリースクールというものに十分に理解が及んでいない指導側の責任なのですが‥‥こちらも色々と学びになる機会でした。 プレグリッド・システムのパネルを取り外して、ここにネットを備えるというのは適用のし易さといい、用いた場合の空間の魅力向上に資することも容易に想像がつくところでよい手法を見つけられたなと思います。千葉県立中央図書館は狭く暗いというような印象を持たれることも多いみたいですが、天高の低さは子どもが使用する分にはかえってフィットするような場合もあるかもしれませんね‥‥新たな気づきをもらえました!

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2022年度 / Aチーム:アートスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2022年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるAチーム:アートスペースの提案内容です。 課題概要と2022年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] アートスペースをテーマとしたAチームは、まず近隣に所在する美術館のリサーチを行い、その上で活用を行うプログラムにレンタルアトリエを設定しました。 これにより千葉文化の森・千葉県文化会館の来訪者にアートとの接点をつくり、日常にアートが染み出すことを目標に、そのハブとして千葉県立中央図書館の既存建築を位置づけるという提案になりました。 書庫側に千葉県文化会館と繋ぐ新たなエスプラナードを設けて、来訪者を引き込むためのデザインとして耐震強度不足が明らかな西側部分と中央部分を解体して、一部プレグリッド・システムを千葉文化の森に点在させると共に、木材(格子梁)と鉄骨材(柱)でプレグリッド・システムのイメージを投影したパーゴラ状のものを展開させることで千葉文化の森全体の魅力に資するものとなるよう試みられています。 [ 総 評 ] 2022年度の傾向の1つに千葉文化の森のエスプラナードに注目するチームが多いことが挙げられて、Aチームの提案では、木材・鉄骨材でイメージを投影したパーゴラ状のものを展開させることで千葉文化の森の新たな風景を獲得しようとする提案でした。 プレグリッド・システムの重厚さに対して、木材・鉄骨材で軽やかな表現を採ってコントラストを示すという考え方は可能性を感じさせるのですが、木材の梁を単に積層させて井桁のように設えるであったり、木割が細くなる分、グリッドのサイズ検討に丁寧さが求められることであったりするところに十分に踏み込み切れていない面は否めないように思われました。 どうにも本質的に千葉県立中央図書館の建築としての美しさにネガティブなイメージをもたれており、これを払拭するまでには及べなかったことがアートスペースの提案として踏み込んでほしい点である、既存建築を美としてどう表現に資するかに相立ち向かうところに行き着かなかったところだったのかなと思われました。 構造強度が不足している西側部分・中央部分のプレグリッド・システムを解体するというのは、これを継承

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案(千葉工業大学大学院建築学専攻:2022年度 建築設計保存改修特論)/ 課題概要と2022年度の傾向

2020年度、2021年度に続いて千葉工業大学大学院建築学専攻「建築保存改修設計特論」にて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んで参りました。 このほど全13週の授業スケジュールを終えて、2022年度の最終成果がまとまりました。 課題概要は過年度と同様で、2019年11月の ワークショップ を通じてまとめられた7つの活用方法を基に履修学生18名を3名ずつ下記の6チームに分けて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みました。 Aチーム:アートスペース (建築の魅力を活かした「アートスペース」としての活用) Bチーム:アタッチスペース   (近隣施設の「アタッチスペース」としての活用) Cチーム:レガシー   ( 千葉文化の森の「レガシー」としての活用(プレグリッドシステムの架構を保存)) Dチーム:コンバージョン   ( 機能を挿入した「コンバージョン」としての活用) Eチーム:レンタルスペース   ( 一定期間の借用となる「レンタルスペース」としての活用) Fチーム:ライブラリー   ( あえて「ライブラリー」として活用) 先立って全体的な傾向を述べておきたいと思います。 2022年度は図書館に代わる新たなプログラムを充足して活用方法を提案するというよりは、千葉県立中央図書館の建築が持つポテンシャルの造形的追求という傾向が強く表れたように感じられました。 これはよく言えば、継承の意味を広く捉えた実験的なデザインの試みといえて、意匠系の大学院生が多く履修する講義としてはデザインの可能性を考える上で教育的意味はありましたが、 一方で、保存活用の主意を踏まえた提案という面では、現実感が薄いものとして映る見え方もできそうかなという印象も残るところでした(社会性の高いプロジェクトの性格から保存改修を重んじたい建築史家の立場と、多く建築デザインを専攻する学生の創造性を育む教育者としての立場の相克は、個人の中では大きな課題です) 基本的には学生のやりたい方向を伸ばすという指導方針もあり、強く修正しなかった結果なのですが、何にオーセンティシティを見出し、これを未来にいかに繋げようかを思考した形が結実していると思えば、2020、21年度が多く千葉県立中央図書館そのものをいかに保存するかを取り組んでいたこととは、また異なる考え方を示すに及べているのかなとも思

2022年度も取り組みます(千葉県立中央図書館の保存活用設計提案課題)

千葉県立中央図書館の保存活用活動に具体的な動きがなかったこともありますが…更新を滞らせてしばらく経ってしまいました。 この間に新千葉県立図書館・県文書館複合施設の基本設計が日本設計に決定となり、関連して見築する機会のあった中銀カプセルタワービルは解体となり、話題がなかったわけではありませんので…言い訳のしようもありません(汗) 千葉工業大学大学院建築学専攻の大学院講義「建築保存改修設計特論」では、2022年度も千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んでいます。 Aチーム:アートスペース Bチーム:アタッチスペース Cチーム:レガシー Dチーム:コンバージョン      Eチーム:レンタルスペース Fチーム:ライブラリー 2022年度は履修学生の関係で、上記のように各3名の6チーム編成となりました。 保存活用設計提案の課題については、既に数回に及んでエスキスを行ってきていますが、難題に大いに頭を悩ませながら頑張っており…興味深い保存活用設計提案をまとめてもらえることを楽しみにしたいです。 新千葉県立図書館の基本設計が本格的にスタートしたというタイミングですから、 千葉県立中央図書館の保存活用が課題として直面するようになるのにはまだしばらく時間があると思いますので、その課題を検討する時期に一助にできるようなアイディア・選択肢を提供できるよう取り組みを続けていきたいと思います。