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千葉県立中央図書館の保存活用設計提案(千葉工業大学大学院建築学専攻:2024年度 建築設計保存改修特論)/ 課題概要と2024年度の傾向

更新が習慣化されていないこともあって、今年度はブログに書き込むことすら失念してしまっていたのですが、5年目となります2024年度も 千葉工業大学大学院建築学専攻「建築保存改修設計特論」にて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組んで参りました。 このほど全13週の授業スケジュールを終えて、2024年度の最終成果がまとまりましたので、ブログでも紹介したいと思います。 課題概要は過年度と同様で、2019年11月の ワークショップ を通じてまとめられた7つの活用方法を基に履修学生18名を3名ずつ下記6チームに分けて千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題に取り組みました。 ワークスペース   (一時的な使用となる「ワークスペース」としての活用) レンタルスペース   (一定期間の借用となる「レンタルスペース」としての活用) アートスペース   (建築の魅力を活かした「アートスペース」としての活用) アタッチスペース   (近隣施設の「アタッチスペース」としての活用) コンバージョン   (機能を挿入した「コンバージョン」としての活用) レガシー   (千葉文化の森の「レガシー」としての活用(プレグリッドシステムの架構を保存)) まずは全体的な傾向をここで述べておきたいと思います。 2024年度は、全体的に千葉県立中央図書館の保存改修設計提案を行うことを比較的ポジティブに捉えている印象が感じられました。学部2年に「サステナブル建築学」を新規開講した最初の学年であったという過去の学習経験によるものかもしれませんが、どうあれ歴史や文化を重んじられる姿勢は好意的に映るところです。 これは1つの解法になるものといってよいと思いますが、2024年度も複層的なエスプラナードをもつという千葉県立中央図書館の特質に着目するチームが多く、そのキャラクターをより活かすために外部(エスプラナード)を積極的に内部に引き入れて建物内をエスプラナード化する傾向がよくみられました。 一方で、過年度とは異なる傾向もありました。千葉県立中央図書には、プレグリッドシステムやエスプラナードといった特異な形態をもつこともあって、おのずと造形からアプローチすることが多かったのですが、2024年度では大髙正人の建築思想をレファレンスしてアプローチするチームが見られたことはとりわけ好ましく、このことが全体の

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / レガシー

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるレガシーの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] プレグリッドシステムの架構のみを残すレガシーというテーマに対して、ここに「個性的な体験を生む公園」(荒川修作「養老天命反転地」やイサム・ノグチ「モエレ沼公園」を想起するとイメージが容易になるでしょうか)を提案されました。 千葉県立中央図書館ひいては「千葉文化の森」全体に及んで点在する円形ないし曲面の造形に糸口を求め、これこそが大髙正人の群造形を表徴するデザインとして仮定し、円を基本造形として3名のチームメンバーがそれぞれデザインした「体験装置」をプレグリッドシステムの内部もしくは周辺に並べて全体を構成しています。 [ 総 評 ] プレグリッドシステムをパーゴラに見立てランドスケープにする提案は過去にも見られてきたもので、レガシーのテーマにおける1つの典型的な解法になるものだろうと思います。 本提案が過去の作品と大きく違えるのは、形態ないしプログラムからアプローチするのが多い中で、大髙正人のテキストから設計理念を読み解いて思想から本質に迫ることを試みたことでしょう(歴史的建造物の保存継承において望ましいアプローチといえるものです) それを通じて着目されたのが「円」の造形で、これこそが大髙の造形上の根幹として位置づけ、プレグリッドシステムを支持する「土台」たるラーメン構造のフレームに多く円形をあしらえていることから、これにも価値を見出すことこそが千葉県立中央図書館における大髙の建築思想を継承するものと説きました。円形を多用していることは理解してきましたが、その意味を深く考えるまでには及べてこなかったこともあり…この鋭い指摘には驚かされました。 レガシーというテーマは、柱梁のストラクチャーだけにするため厳密には歴史的建造物保存とは言い難い性格をもつものですが、挿入された「体験装置」が一定期間公園として利用され、状況が整ってから新たな活用方法をもって再生できるに及んだ時に「体験装置」を取り除いて原状回帰できる計画というのは(ただし書庫だけは解体)、実現性の観点でも評価できるように

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / コンバージョン

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるコンバージョンの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 文教施設が建ち並ぶ「千葉文化の森」という敷地と、そして周囲が官庁街であるというコンテクストを読み取り、宿泊施設を伴う「青年自然の家」へとコンバージョンすることを提案しました。 西側のブロックにギャラリーと会議・研修室等を配置し、東側のブロックでは、そのプレグリッドシステムの特徴的な造形を活かした多目的スペースを設けました。中央部は内観を継承してホールとして取り扱い、宿泊機能(宿泊室、浴室、食堂など)を書庫内に収める計画としています。 多目的スペース(プレグリッドシステムで構築された東側ブロック)には、湾曲させた鋼板を挿入して補強すると共に、これで隔てられ外部となった箇所は床パネルを除いて格子梁を露出させ、まるで内外が反転するような造形性に富んだ空間としており、デザインにも与する耐震補強の提案も行っています。 [ 総 評 ] プログラム選択の幅が広く、かえってこれが難しくもあるコンバージョンというテーマにおいて「青年自然の家」をチョイスされました。都市部でありながら、自然も多い「千葉文化の森」には、千葉県文化会館、千葉市立郷土博物館、千葉県庁(教育委員会)などが近隣に建つことから研修施設は十分にニーズが考えられるでしょう。 かねてから本課題においてホテルを提案することが散見され、これもまた1つの解法ともいえるものでありました。ホテルとして計画すると、宿泊客へのインセンティブのため、プレグリッドシステム内部に宿泊室を配して魅力を提供するものが多く、一方で空間的な差異の顕著な書庫をどのように利用するか悩ましく映るものを見てきました。 本提案では「青年自然の家」とすることで、宿泊施設のクオリティにプライオリティを求めなくても良いことで、北東側の書庫内にこれを収めて、全体的に現実的な提案になったように感じられました。 プレグリッドシステムに湾曲した鋼板を挿入して耐震補強を試みたことも、施工こそは難工事になりますが、コンクリートの重厚さに比して表情を違えるソリッドな建築がオーバ

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / アタッチスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるアタッチスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 近隣に所在する千葉大学付属病院のリハビリ施設の拡充を提案したものです。構造を専門とするメンバーが2人いるチーム構成ということもあり、新たに加える耐震壁に矩折にしたワイヤーを挿入して、これで床スラブを吊り上げて荷重を緩和するという特殊な吊り構造による耐震改修を提案しました。従来に吊り構造では、吊り材が視覚的に露出してしまうので、保存継承に相応しいようにこれを隠す斬新な耐震補強案を試みました。 [ 総 評 ] 当初は「千葉文化の森」全体をリハビリ施設として扱い、千葉大学付属病院のアタッチスペースとして、その関係性を明瞭なものになるよう計画していましたが、建築計画としてリハビリ施設を成立させることに苦心され、結果的には挑戦的な提案が小規模化する形になりました。そのためアタッチスペースとしての提案もいくらか魅力が薄れてしまったことは否めないように映る提案となりました(もっともリハビリ施設の建築計画は難易度の高い設計ではあるので、ハードルが高かったとみることもできるかもしれません) 斬新な吊り構造を内包する耐震壁の提案は、現実的には難しいという結果にこそなりましたが、挑戦そのものは評価されるべきものと思いますし、何よりアイディアは興味深く映るものでした。構造解析をして、既存建築の強度を示したことも有用な成果であったと考えます。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / アートスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるアートスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 街に対して正面となる西側のプレグリッドシステムをもつブロックを図書館の記憶を引き継ぐ書籍を介したコミュニティスペース、東側のプレグリッドシステムと書庫からなるブロックをアートスペースとし、大髙正人の事績を顕彰する常設展示室と、例えば絵画のような厳格な温湿度管理を必要としないアートを対象にした企画展示室とで構成するものとして計画しました。 東西のブロックは既存建築の保存継承という性格をもつ一方で、中央部分は大胆に解体して南北を貫く新たな動線をつくりました。これによりコミュニティスペースとアートスペースを接続するホールとすべく、これを鉄骨造の樹状トラスによって既存建築と対比的な表情をもつ新たな大空間を形成しています。 [ 総 評 ] 意匠・構造・材料のメンバーから構成されたチームで、意匠が全体を計画し、材料が企画展示室のインテリアと壁面緑化、構造が新設するホールをそれぞれ分業して取り組まれたもので、バランスのとれた提案になりました。 保存継承の観点からみれば、中央部分を解体することには賛否があると思いますが、駐車場側(北側)にもエントランスを設けて、従来のメインエントランスと南北方向でつなぐホールとする計画は過去にも同様の手法が試みられてきましたので、改修設計提案の1つの方向性を示しているように思います。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / レンタルスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるレンタルスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 千葉県立中央図書館を特徴づけるプレグリッドシステムを保存継承において重要とみて、外壁を取り除いて床面の高さを操作することで既存建築の下部にエスプラナードを引き込み、かつ新たな動線を獲得し(エスプラナードの拡張)、これを視覚化するためにDPG構法によるガラスボックスを配置して、レンタルスペースの用途に充てるという提案を行いました。 [ 総 評 ] 一面的に暗く重苦しい印象を伴う千葉県立中央図書館を明るく開放的にするための提案です。建築よりは場所の意味を継承することが重要視され、既存のパーツを大部分取り除き、加える操作(ガラスボックス)も最小限に留めるという「マイナスのデザイン」によって全体を構成していることで、結果的にレガシーのテーマと性格的に近い提案になりました。 これを実現するためには、下層階の床面切除、地下階の埋め戻しと床面の新規打設、そしてプレグリッドシステムの中間階の切除という難工事が必要であり、全体的にやや観念的なアプローチに終始した印象をもたせるものになりました。この軽やかなスタンスによるアプローチも学生ならではの提案といえるかもしれません。

千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2024年度 / ワークスペース

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千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2024年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるワークスペースの提案内容です。 課題概要と2024年度の傾向についてご覧になられていない方は、まずは コチラ を参照いただければと思います。 [ 保存活用設計提案の概要 ] 2024年度は、建築材料を専門に学ぶ大学院生(計5名)に多数履修いただきました。その中で、当該分野だけで構成されることになった異色のチームにより取り組まれた提案です。 本チームのテーマとするワークスペース、ひいては他のテーマであっても汎用性の高い建築材料の視点から、設計ではなく次の3つについて改修方法の提案を行うというアプローチになりました。 ①柱壁の補修:コンクリート中性化の進行が顕著な箇所を取り除き、亜硝酸リチウム含有エマルションを塗布し、鉄筋を亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントで保護する。取り除いた部分について亜硝酸リチウム含有ポリマーセメントモルタルで充填し、斫り仕上げ(ビシャン仕上げ)については、これをあらかじめ施したパネルを特注で製作して覆い、打放しコンクリート仕上げ面はクリアー塗料で保護を行う。柱と梁は、炭素繊維シートを定着プレートとボルトで固定して、モルタルを4cm厚で被覆することで補修する。 ②屋上緑化:荷重を鑑み外周に中高木、中央を常緑キリンソウとして、これに必要な屋上防水改修と潅水・排水のシステムを提案。 ③トイレ改修:2か所あるうちの西側トイレを多目的トイレとして内部改修し、東側トイレを建て替えて、内部仕上げに漆喰を用いる。 [ 総 評 ] 意匠系不在という、設計課題に取り組む上ではアンバランスなチームメンバーとなったため、割り切って3人それぞれに材料の視点から提案を行ってもらうという方針になりました。 それぞれに努められ、挑戦的というよりは現実的な提案としてまとめられました。もっとも、こう映るのも担当教員が材料分野に精通していないことよるところが大きく、このことは上述した「概要」でも、②屋上緑化と③トイレ改修の記述が少なめになってしまったこととよく関係するところでしょう。 ①柱壁の補修における、斫り仕上げ(ビシャン仕上げ)補修に多く関心が及んだことは、指導教員の専門分野との関係性の密接さゆえです。千葉県立中央図書館の外観を大きく左右し、歴史