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保存活用とリノベーションの違いについての一考察

先の8月のことですが、千葉市で リノベーションスクール が始まるということを耳にして そのスタートアップとなるブルースタジオ・大島芳彦氏の講演を聞く機会がありました。 どちらかというと経済性に結び付けた内容が多かったように聞こえて、リノベーションと歴史的建造物の保存活用とは似ているようでちょっと違うのだな…と相容れぬ性格があるという印象を抱き、いささか場違いなところに来てしまったなぁと思ったものでした。 もっとも、おそらくは不動産を所有されるオーナーが多数参加されていることを念頭にして話されたと思われて、比較的経済面にウェイトを置いた講演になったのだと思います。 リノベーションは私が修士の大学院生だった頃の2004年頃には耳にしていましたが、 時間の経過した建造物を取り扱うことは共通していても、歴史的建造物の保存活用とはどう違うのだろう?と思い続けてきました。 そのことはしばらく頭の片隅に置かれて、ややホコリを被ってすらいたのですが、 先の講演を聞いた以来、改めてその違いは何なのだろう?という疑問が燻るようになっていました。 そんな折に、ちょうど講演をされた大島芳彦氏が書かれた 『 なぜ僕らは今、リノベーションを考えるのか 』 が刊行されたと聞いて買い求めてみました。 読んでみると、リノベーションを考えるようになった軌跡や大島氏自らの足跡、そしてその理念を説明されていて、 広く一般の読者を意識されて書かれていることもあって、 先の講演より、いや講演で聞いてことも相乗してリノベーションのことをいくらかクリアに理解できたように思います。 それは要するにリノベーションは「RE+INNOVATION」であるということ つまり、リフォームが「RE+FOAM」で形の操作に過ぎないものを、考え方や使い方までをプロデュースする革新的な性格を包括しているということです。 そして、 このイノベーションのために使うのが、その時間の経過した建物が重ねてきた「物語」であるといいます。 保存活用も、その歴史的建造物のもつ歴史的・文化的価値の継承を目的とするものです。 歴史は「HI  “STORY”」 ですから、同様に「物語」としての性格をもつわけですが、 リノベーションと保存活用は同じく「物語」に重きを置いている点では共通しています

千葉県内の台風被害について

関東地方を直撃した台風15号から既に10日間が経ちました。 千葉県内の各所で多くの家屋が被害を受け、未だ停電も続いています。 私は学務の出張で北海道(函館) にいたこともあって、復路の飛行機がいくらか遅れた程度で済んだのですが、 台風の到来時に千葉にいなかったためか、後々に明るみになる被害の大きさを知り、その風雨がいかに激しいものであったかを痛感しています。 この度に被災をされた多くの皆様に心よりお見舞いを申し上げる次第です。 そのような苦しい事態に直面される方々がおられる中で、歴史的建造物の保存を考えるということはいかに悠長なことかという想いも湧き上がってきます。 走り出したのだから前進するしかないのですが…

保存活用に向けての活動計画:活動4についての補足

千葉県立中央図書館の保存活用に関する活動計画では、次の3つの課題を取り組み上の実質的な内容としています。 2. 「千葉文化の森」の 計画推移と千葉の文教都市景観形成に関する歴史的研究 3. 「プレグリッド・シ ステム」の構造解析と耐震改修方法の検討 4. 千葉県立中央図書館の活用方法の提案 先んじて 活動2 と 活動3 について補足をしてきましたので、保存活用活動の補足をまとめる記事としては最後になります  活動4   千葉県立中央図書館の活用方法の提案  について補足したいと思います。 千葉県立中央図書館は2019年6月に 「 新千葉県立図書館等複合施設基本計画(原案) 」がまとめられて、青葉の森公園内に新たな県立図書館を建設することが発表されたことで、将来的に図書館としての役割を失うことが決定的になりました。 私の聞き及ぶ範囲では、これといった活用方法は検討されていないようですが…このことは先日活動3の補足について述べたところですが、現段階で算出されている多額な耐震改修費も大きく影響しているようです。 従って、千葉県立中央図書館を保存を実現するためには、従前の図書館とは異なる何らかの活用方法を考えなければなりません。 活動3で耐震補強の検討をするわけですが、どうやっても改修費がゼロになるわけではありませんから、活用方法を検討することなしに保存を実現することも難しいと考えます。 使い方のないところには1円だって投じることは無駄になりますから… このことについてワークショップによって(今後活動していく中で思いつけばチャレンジしたいとも思っています)、何らかの活用方法を見出すことが出来れば良いなと…楽観的に構えています。 もっとも提案したものが実現出来るかは段階が異なりますから、また別のハードルがあるのですが…

保存活用に向けての活動計画:活動3についての補足

千葉県立中央図書館の保存活用に関する活動計画では、次の3つの課題を取り組み上の実質的な内容としています。 2. 「千葉文化の森」の計画推移と千葉の文教都市景観形成に関する歴史的研究 3. 「プレグリッド・システム」の構造解析と耐震改修方法の検討 4. 千葉県立中央図書館の活用方法の提案 先に活動2について補足をしてきましたので、ここでは  活動3 「プレグリッド・システム」の構造解析と耐震改修方法の検討  について補足したいと思います。 千葉県立中央図書館は2006年に実施したという耐震診断でIs値が0.25と出て、一部に強度不足のあることが明るみになっています。 Is値は構造耐震指標のことを言いまして、震度6強の地震に倒壊せずに耐えられる値として0.6(公共建築では0.7)以上である必要があるとしています。 さらに0.3を下回っていると倒壊の危険性が高いというように定めています。 こうなると千葉県立中央図書館はもう…ともなりそうですが、 Is値というのは当該建物で最も数値の低いところでもって説明されるので、診断結果を額面通りに受け止めるには注意も必要です。 例えば、耐震補強も行なってリニューアルされた米子市公会堂ではIs値が0.15でした。 これは屋根の強度不足であって、全面的に架け替えて強度を高めていますが(もちろんこれ以外にもRC壁面の増し打ちなども合わせて行なっています)、 考え方として大切なことは全部が全部耐震強度が足らないことを示しているわけではないということです。 それと今は円形劇場くらよしフィギュアミュージアムにコンバージョンされた旧倉吉市立明倫小学校円形校舎でもIs値は0.35で強度不足と診断されてきましたが、 2016年に発生した鳥取県中部地震(震度6弱)では大きな被害を被らず、これも保存活用にいくらか関与していた立場としてはホッと胸を撫でおろしてきました。 要するにIs値によって示された耐震強度の実態はどうあれ指標に過ぎないのだな…ということをいくらか経験してきました。 現行の耐震強度基準は1981年の建築基準法改正によって決められたものに準拠しています。 つまり、それ以前に建てられた建造物は基準が異なりますから、耐震強度が足らないのは当然であって、 強度不足が明白であることを前提に保存の是非を考える

保存活用に向けての活動計画:活動2についての補足

先日ブログ開設に合わせて立て続けに記事を載せた中に千葉県立中央図書館の保存活用に向けて検討している 活動計画 について書きました。 そのことについていくらか補足しておきたいというのが、これをを含む一連の記事です。 現状では差し当たって5つの取り組みを示していますが、保存活用の検討において実質上の課題は 2. 「千葉文化の森」の計画推移と千葉の文教都市景観形成に関する歴史的研究 3. 「プレグリッド・システム」の構造解析と耐震改修方法の検討 4. 千葉県立中央図書館の活用方法の提案 の3つです。 ここでは、2. 「千葉文化の森」の計画推移と千葉の文教都市景観形成に関する歴史的研究  について補足的に述べたいと思います。 千葉県立中央図書館は既に建築家・大髙正人の設計であり、加えて 構造家・木村俊彦が考案した「プレグリッド・システム」の技術的革新性の評価から戦後モダニズム建築を代表する建築として既に多くが語られてきています。 要するに建築界(その中のニッチな歴史分野において特に)においては高名な存在で、建築史家のハシクレとしては、将来的には重要文化財に指定されるだけのポテンシャルのある重要な建築であると考えています。 多く保存活動が行われる場合には、こうした建築的な評価でもって保存することの重要性が主張されるわけですが、作品主義的性格の強い説明に終始していることも少なくありません。 もとい建築という「世界」にあれば、これで説明は十分なのですが…現実的には様々な状況や条件が取り巻く中で一面的な(偏ったとも映るであろう)見方では、 理屈はわかっても状況や条件を解消するものではなく、建設的でないからには顧みる必然性にも欠くというところなのでしょう。 上記した3つの取り組みは異なるアプローチから、基本としては建設的に検討し得るだけの材料を作成して、前向きに取り扱っていただけるのであれば…というところに立脚しています。 もっとも材料が準備出来た段階で既に解体が決まってしまっているということもあるでしょうし、 県立図書館という大規模施設が相手ですから、一部の声に耳を傾けるより、県民という多くの声なき声も意識せざるを得ない性格もあるはずです(例えば、新国立競技場のような…)。 建築史上において重要な建築として評価されている千葉県立中央図書