千葉県立中央図書館の保存活用設計提案_2021年度 / Cチーム:コンバージョン

千葉工業大学大学院(建築学専攻)「建築保存改修設計特論/2021年度」で取り組んだ千葉県立中央図書館の保存活用設計提案の課題におけるCチーム:コンバージョンの提案内容です。

課題概要と経過説明についてご覧になられていない方は、まずはコチラを参照いただければと思います。




[ 保存活用設計提案の概要 ]
Cチームの保存活用設計提案のテーマはコンバージョンですが、設計検討の過程で大きく路線を違えていく形になりました。その経過は「総評」でふれるものとして、保存活用設計提案の概要については、プレゼンシートに記載された宣言ともいえるテキストを引用するものとしたいと思います。

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我々の設計はある種のスぺキュラティブデザインである。

黒川紀章の「中銀カプセルタワービル」や、前川國男の「東京海上日動ビル」など、名建築が次々と取り壊されようとしている現代の流れに対して、ただその建築の重要性を唱え、従来通りの保存を提案するだけでは、その建築を後世に守り抜くことが難しいのかもしれない。

そのため、今回の設計では意匠系研究室の3人が集まったということも斟酌し、千葉県立中央図書館を「保存の対象」であると同時に「純粋な素材」として捉え、空間的な体験価値を再度高めるような操作に焦点を絞り設計をおこなった。

設計において手がかりとなりうる、コンテクスト、導線、環境、プログラムから建築を組み立てるのではなく、千葉県立中央図書館の空間のみにフォーカスして行う設計は、掴みどころのない意思決定の連続を強いられた。

しかし、新旧のコントラストやグリッドの演出など、この建築だからこそ出来る空間体験の付加価値を意匠的な操作によって提示することで、日本の保存改修事例のバリエーションが一つでも増え、より多くの歴史的価値のある建築が後世に残せれば幸いである。
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[ 総 評 ]
千葉県立中央図書館は、従前の用途である図書館としての活用が継続出来ない以上、新たな活用方法を検討しなければならないのが基本路線であって、多かれ少なかれ他のテーマもコンバージョンという性格をもっています。つまりは、最も汎用的な性格をもつのがコンバージョンというテーマであるということです。

とりわけ設計の力量に優れた意匠系のみのメンバーでチームが構成されたCチームの面々にとって、活用方法(機能)を決めて提案を破綻なく、かつ麗しくまとめることは容易なことだろうと想像ができました。そこで、その造形への意欲の高さとセンスに期待して、通常の設計課題において、はじめに検討と設定を行うプログラムから設計にアプローチすることに制約を設けて、千葉県立中央図書館の空間性と建築造形を最大限活かすための造形操作を模索するというアプローチで設計に臨んでもらいました(これが「千葉県立中央図書館の空間のみにフォーカスして行う設計は、掴みどころのない意思決定の連続を強いられた」として皮肉めいたことを書かれたという背景です)

設計検討の初期に新たな素材を添加する「新旧の対比」をコンセプトに定め、そしてチームメンバーでコンバージョンにおける造形操作のパタンラゲージのようなものを壁や床など様々なパーツごとに全体で50を超える多数の造形アイディアをエスキスすることをもって、西棟・中央棟・東棟をそれぞれ分業でデザインするというフローで進む形になりました。

最終のプレゼンテーションにおいて、分業のまま併存が強く表出してしまったことと造形操作のパターンと用法について説明がなかったことは惜しまれるところではありました。ですが、グラウンドルールとして共通のコンセプトを決め、かつ造形操作のパターンをメンバーの共有作業を通じてまとめていたこともあってか、分業で担当したにも関わらず、それぞれが通底する造形性をもって最終的な提案がまとまったことに、設計プロセスの実験的な面白さは多分に認められるところになったと振り返ります。

上記の「宣言文」で述べているように、歴史的建造物の保存改修にあたって既存の建築に過度に遜るデザインが横行し、デザインの幅を狭めていることは、指導する側も従前から気にかけてきた共有の認識をもつ問題として捉えてきました。

プレグリッド・システムのもつ強い視覚表現について、曲面や斜面の挿入、格子梁を覆うといった造形操作は、千葉県立中央図書館の空間性を継承しつつ、新たな空間性を創出し、獲得するメソッドが見出せたように思われました。意匠性に極度に振り切った一見バランスを欠くように映る提案ではありますが、本提案が示唆したものは重要な成果であると信じています。

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