「千葉文化の森」DOCOMOMO Japan選定(追加)記念シンポジウム:概要と感想

先日19日(土)の「千葉文化の森」DOCOMOMO Japan選定(追加)記念シンポジウムを開催し、無事に終えることが出来ました。
千葉県内の多くの箇所で台風15号の被害があり、その後の台風19号もまた全国各地で大きな爪痕を残して多くの被災者が大変なご苦労をされているという最中であり…
そうした状況に悩ましい思いもありますが、天候にも恵まれて無事に開催に及び、活況のうちに幕を閉じられたことは企画運営側としては安堵するばかりです。

今回のシンポジウムは、千葉県立中央図書館に加えて千葉県文化会館・聖賢堂を加えて「千葉文化の森」としてDOCOMOMO Japan選定建築に追加となったことを記念しての開催を主旨としていましたが、
一方で、先行きの不透明な千葉県立中央図書館、そして文化会館改修後に解体が公表されている聖賢堂が千葉県文化会館と揃っていることの意味を理解し、またこれを未来へと継承していくことの重要性を認識しようではないかというところに開催の動機がありました。

シンポジウムの内容をただ書き連ねるのは冗長になりかねませんので(「保存活用検討報告書」にて詳細に記録化しようと思います)、この記事では特に筆者が感じ入ったところに絞って概要をまとめたいと思います。

最初に登壇いただいた松隈先生は『建築家大髙正人の仕事』(エクスナレッジ  2014年)の大髙正人に関する著書があるほか、先般『建築の前夜 前川國男論』(みすず書房  2016年)では2019年日本建築学会賞(論文)も受賞された、モダニズム建築研究の第一人者です。

松隈先生には「「千葉文化の森」の歴史的価値をめぐって 大高正人の求めたもの」というタイトルでお話しいただきました。
とりわけ大髙正人が建築を通じてどのように社会・生活に資する基盤としての都市ひいては風景を築こうとしていたかという眼差しが、現代においてとりわけ重要な意味をもつものであるというご指摘には大いに考えさせられるところがありました。
「千葉文化の森」がいかなる千葉の都市風景を築き上げたのか、このことを考えることが千葉にいる建築史家として果たすべき役割なのだろうと思いました。

続いて登壇いただいた増山先生は、大髙正人の下で千葉県文化会館の設計を担当し、また藤本昌也氏・下山政明氏と設立した現代計画研究所では茨城県六番池・会神原団地(日本建築学会業績賞)やヨックモック本社ビル(BCS賞)などに携わり、後にすぺーす・ますやま一級建築事務所も自営して数々の建築設計に携わられてきた建築家です。

増山先生のご講演でも、大髙正人がいかに都市ないし建築群という大局的な視点から建築の可能性を模索していたかという、その思想・視座の重要性を強く述べられていたことが印象的でした。
このことは卓越した地形を読む力があってこそ建築になるわけですが、「千葉文化の森」はその象徴的な存在であり、その完成度の高さは50年が経過しても色褪せていないところに歴史・文化としての意味が認められます。
そして、今でこそ当たり前の「コンテクスト」を考えて設計することの先鋭的な姿勢を持っていたのが大髙正人であるという見方をした時に、その意味はより重要なものとなってくるのではないかと思いました。

最後に登壇いただいたのが渡辺邦夫先生で、木村俊彦の下で千葉県文化会館・聖賢堂・千葉県立中央図書館の構造設計を担当されており、
また渡辺先生ご自身も幕張メッセや横浜大さんばし国際客船ターミナルをはじめとする多数の構造設計に携わり世界的に活躍しておられる国内を代表する構造家です。

渡辺先生には「千葉県立中央図書館(1965年-1970年)プレグリッドシステム」の演題でお話しいただきました。
千葉県立中央図書館は「プレグリッドシステム」と呼んだ、プレキャストコンクリートによる柱を立て、これにプレテンションをかけたプレキャストの十字梁をポストテンション方式によるプレストレストコンクリートで緊結するという世界にも唯一という特殊な構造形式を採っており、
例えばそのグリッドが2.4mモジュールとするのは工場から現場までの運搬を考慮したサイズであり、これと共に施工・工期・生産・空間・意匠までを包括的に規定する「システム」を考案したのであって、
そうしたトータルな視点からエンジニアリングデザインに臨んでいたのが木村俊彦という構造家であるという内容でした。

講演をお引き受けいただく段階から、渡辺先生から単なる構造設計ではないということの指摘を受けていたのですが、シンポジウムを経てクリアに理解することが出来ました。

先生方にお話しいただいた後には討論を行いましたが、コメンテータ-をお引き受けいただいた頴原先生(千葉大学)の進行が素晴らしく(司会の私の出る幕がありませんでした)、
構造家の佐々木睦朗先生も来場されていたこともあって、その特殊な構造形式について熱い議論が重ねられ、
千葉県立中央図書館が世界基準にとっても重要といえる独自の構造形式をもつことの建築技術史的な意義は計り知れないものであることを改めて認識するものとして、活況のうちにシンポジウムを終えることが出来ました。

上述したように個人的にも大変に収穫の多いシンポジウムで、大いに勇気づけられるものでしたが、
改めて千葉県立中央図書館にとって構造家・木村俊彦の重要性がクローズアップされるところになり、これからは設計者に大髙正人と共に木村俊彦を併記するようにしようと思いました。

コメント